寒空は分厚い雲に覆われていたが、雪明かりのせいか、妙に空は明るかった。
(雪が降っていないだけ、まだ良かった……)
それでも寒い。レースをふんだんにあしらった焦げ茶色の外套に身を包んだキルシュは、時折吹く氷の風に肩をすくめながら夜の森を進む。
その肩に乗るファオルは、まだ鼻をすんすんと鳴らし、静かに泣いていた。カンテラに照らされた雪の道は、シュネが権能で融かしていたおかげで、歩みに支障は無い。そんなキルシュの少し後ろを、ケルンがいつもの軽装で黙々と歩いている。
既に、森の奥深くにある廃教会を出ておよそ一時間。
針葉樹ばかりだった木々に落葉樹が混じり始め、上空も徐々に開けてきた。森の出口が近い証拠だ。──こんな長距離を、雪の日も雨の日も。
シュネは、これを毎日のように往復していたのだろうか。今さらながら、彼女の体力に圧倒された。だが、それよりも。
本当に、どうしてしまったのだろう。事件や事故に巻き込まれていなければいいが……とにかく早く、無事を確かめたい。胸の中では、そんな思いばかりが渦を巻いていた。やがて森を抜けると、遠くにぽつぽつと街灯と民家の灯りが見えてきた。
キルシュは立ち止まり、やや後ろを歩いていたケルンの方へと振り返る。彼は変則的な使徒で、元は人間──その姿は、普通の人間にもそのまま見えてしまうと、以前話していた。
闇にぼんやりと浮かぶ発光する瞳。首元に露わになった金属質の部位。 確かに、これでは目立ちすぎる。見られれば、厄介な事になるだろう。「ケルン、ここで待っていて。私は民家や商店に聞き込みに行ってくる。……多分、ファオルは私の肩に乗っていても、普通の人には見えないと思うから」ファオルの背をそっと撫でながらそう言うと、ケルンはすぐに首を振った。
「いや。この時間だ。夜も更けてきて、人通りはほとんど無い。……俺は目立たないようにキルシュを追う。キルシュにまで何かあ